正常収益力と実態バランスシート(その2:実態BS)

2020年03月13日 / 最終更新日 : 2020年02月05日

中小企業診断士の山田盛史です。
前回は正常収益力について書きました。

前回の記事はこちら

2回目となる今回のテーマは実態BSです。


実態BSとは

貸借対照表の数値をもとに資産や負債の数値を実態に合わせて修正して実態に合ったBSを作ります。
貸借対照表も企業の実態を正確に表している訳ではないからです。

中小企業の財務諸表は会計監査を受けている訳ではなく

資産の実在性(本当にあるのか)
評価の妥当性(適切な価格か)
負債の網羅性(すべて記録されているか)

などを調査して実態に合わせる必要があります。

資産の実在性や評価の妥当性でよくあるのが売掛金や棚卸資産(在庫)などが実態と大きく乖離しているケースです。

例えば、貸借対照表で売掛金が1000万円あったとします。
しかし、このうち200万円は、半年以上も回収できていない債権であったとしたら資産として含めて良いでしょうか。

通常の回収サイクルに比べて明らかにサイクルが長い債権は回収できない可能性が高いので資産性はありません。
つまり資産性のない200万円の売掛金は減額して実態の売掛金は800万円と評価します。

また、棚卸資産も実態と大きく乖離しているケースが多々あります。
実際に私が事業再生のご支援をさせて頂いた菓子販売業の事業者様では貸借対照表の棚卸資産のうち、4分の1程度がすでに賞味期限切れとなっていました。
賞味期限切れの在庫は売り物にならないため資産価値はゼロです。
にも関わらず棚卸資産として計上されていた訳です。

実態BSで資産性のない賞味期限切れの在庫金額は減額して実態の棚卸資産の金額に修正します。


簿価と時価

評価の妥当性(適切な価格か)には時価があるものは時価に修正します。
例えば、有価証券(株式)や土地などが該当します。
有価証券も土地も買ったときの値段(簿価)で貸借対照表には計上されています。
しかしながら、どちらも時価があるため時価の金額に修正します。
簡易的に修正する場合、土地は路線価をもとに時価を求めます。

その他、保険積立金は解約返戻金の金額に修正します。
解約返戻金は解約したらいくらに換金されるのかを示す金額なので時価ということになります。


負債の網羅性(すべて記録されているか)

次に負債の網羅性ですが、これは負債が漏れなく貸借対照表に計上されているかどうかを把握して漏れていれば、その分金額を加算します。
実際のところ、負債の網羅性は資産の実在性と比較して検証が難しく他にないということを言い切ることは極めて難しいものです。

よく出てくるケースとしては、未払残業代の有無です。
本来支払いが必要な残業代を認識せず債務として計上されていない場合などがあります。

仮に未払残業代があり従業員から請求を受けた場合や労働監督基準署の指導が入った場合など、思わぬ形で債務が顕在化し、
損失が発生するというケースがあります。
そのため顕在化している、または顕在化の可能性が高い未払残業代は負債として認識して、未払残業代の金額を加算します。

以上が実態BSの主要な論点です。

今回、2回に分けて解説してきた正常収益力や実態BSの調査や作成は財務デューデリジェンスと呼ばれ、事業再生やM&Aの際に行われる作業になります。


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