中小企業の管理会計において社内売上や社内利益を設定するメリット・デメリット

2019年06月08日 / 最終更新日 : 2019年06月03日

こんにちは、中小企業診断士の山田盛史です。

私は仕事柄、中小企業様の管理会計について触れる機会が多いのですが、管理会計において社内売上や社内利益を設定して管理されている中小企業様に出くわすことがあります。

今回は社内利益を設定することの意義を考えたいと思います。


そもそも社内売上や社内利益とは何か

まず社内利益とは何なのかという事ですが、これは主に製造業と小売業をやられている事業者様で実施されている傾向が強いものです。

例えば、1つの会社の中に自社工場を持ち製造して出荷する製造部門と製造された製品を販売する販売部門という2つの部門があるとしましょう。

このように製造部門と販売部門が分かれている場合には部門間での社内取引が発生します。

下図を見てください。

 

製造部門の立場からすると自部門で製造した製品を販売部門に引き渡している=販売している、と理解することができます。

逆に販売部門からすると製造部門から製品を仕入れて、それを社外の顧客に販売しているということになります。

このような社内取引に対して管理会計で社内売上や社内利益を設定して管理するという方法があります。

この管理方法は、社内取引に利益を乗せずに原価のまま管理する方法と原価から利益を乗せて管理する方法があります。

あくまでこの社内売上や社内利益や社内のものですから、決算書作成の決算整理の時に相殺されて打ち消されます。


社内売上や社内利益を設定する際のメリット

一般的にこのような社内取引の管理をすることのメリットは従業員の評価やモチベーションを高めるということがあげられます。

例えば、製造部門からすると自部門で製造した製品がどれくらい出荷されているか、またどれくらいの利益をあげているかというのが見える化されるため採算意識が醸成されモチベーションの向上につながるというのがあります。また部門利益を人事考課の評価として設定している事業者様もあり評価指標とすることもできます。


社内売上や社内利益を設定する際のデメリット

次にデメリットですが、以下の2点が主なデメリットです。

①決算書の数値との連動が分かりにくい

決算書を作成する際には社内取引が相殺されるので結果的には同じ決算書数値になります。
しかしながら期中の進捗を把握する際には、社内取引が含まれているので決算書数値との連動がすぐには分かりません。
収支計画は決算書数値をもとに作るものなので、目標数値と比較してどれくらいの進捗で推移しているかというのがすぐには分かりません。

②実態の利益が見えづらくなりミスリードを起こしやすい

社内売上や社内利益とはあくまで社内の売上や利益であって実態のない売上や利益といえます。
このように実態のない売上や利益を作って管理すること自体が実態の収支を見えづらくしてしまいます。

また偏った考えに陥りやすいという側面もあります。

例えば、製造部門の担当者からすると自部門の利益をあげるためには、製造原価を下げるか社内売上をあげるかどちらかをする必要があります。製造原価を下げるという考えは、歩留まりをあげるなどの効率化や社外から仕入れる材料等のコストダウンを行うことにつながるため会社としての利益の創出につながります。

しかしながら、社内売上をあげるという考えは、販売部門への販売数をあげたり販売単価をあげることになります。
社内取引において販売単価をあげたところで会社全体の利益は変わらないので全社の収支にはプラスに働きません。また販売部門が必要としていない製品の販売数をあげても会社外への売上につながらないため在庫増加の要因にもなりかねません。

このように社内取引を見える化をして管理することでの弊害も少なくありません。


中小企業の管理会計としての社内取引

このようにメリット・デメリットを勘案するとデメリットによる悪影響の方が大きのではないかと思います。

メリットにあるような評価やモチベーションによる効果は、なにも社内利益の管理でしか実現できないものではないと思います。

評価指標やモチベーション向上を他の指標や方法で対応すれば社内売上や社内利益を設定する必要はないと思うので、必ずしも社内取引を管理する必要はないでしょう。

社内取引管理の導入は自社のメリット・デメリットを勘案して慎重に検討したいものです。


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