カーブアウト(Carve Out)とは?企業戦略におけるメリットと実施時の留意点
2025年09月15日 / 最終更新日 : 2025年08月22日
カーブアウト(Carve Out)は、企業が自社の一部事業を切り出して、新たな独立会社として運営する手法です。これにより、企業は特定の事業に対する集中投資や効率化を図ることができ、企業価値の最大化を目指すことが可能です。特に、経営資源の最適化やリスク分散を図りたい企業にとって、カーブアウトは重要な選択肢となります。本記事では、カーブアウトの基本的な概念、実施の目的やメリット、そして成功させるためのポイントについて詳しく解説します。
カーブアウトの基本概念
カーブアウトとは、企業が自社の事業の一部を切り出して別会社として独立させることで、企業の組織再編や事業再編の一環として行われます。このプロセスでは、分割された事業は新しい法人格を取得し、既存の親会社から一定の独立性を持ちながら運営されることになります。カーブアウトされた新会社の株式は、親会社が一部もしくは全てを保有することが一般的ですが、外部投資家への売却や新会社の上場(IPO)も視野に入れられる場合があります。
カーブアウトは、スピンオフ(Spin-off)や売却(Divestiture)などの他の事業再編手法と混同されがちですが、主な違いは、カーブアウトの場合、親会社が新会社の株式を保有しつつ、新会社は運営面で一定の自立性を持つことです。スピンオフでは、新会社は完全に親会社から分離され、株主に新会社の株式が配布されます。一方、売却では事業が完全に第三者に売却され、親会社との関係は消滅します。
カーブアウトの目的とメリット
カーブアウトを実施する企業には、いくつかの目的や理由があります。その目的に応じて、企業に多くのメリットがもたらされることが期待されます。
1. 経営資源の最適化
企業の中には、多くの異なる事業を抱えているケースがあり、すべての事業に対して十分なリソースや関心を配分できないことがあります。特に、成長性の高い事業と、成長が停滞している事業が混在する場合、資源配分が偏り、結果としてどちらの事業も思うように成長しないことがあります。このような場合、カーブアウトによって事業を分離することで、各事業が自らの目標に集中できる環境を整えることができます。
カーブアウトされた事業は、新しい会社として独立した運営を行い、親会社とは異なる経営戦略や資源配分のもとで成長を目指すことが可能です。これにより、各事業は自分に最適な戦略を取ることができ、全体として企業の競争力が高まる可能性があります。
2. 市場価値の最大化
親会社にとって、ある事業が本来の企業価値を十分に反映していないことがあります。多角化経営を行っている企業では、特定の事業の業績が全体の評価に埋もれてしまい、その事業が持つ潜在的な価値が株主や市場に評価されにくいという問題が生じることがあります。
カーブアウトにより、切り出された事業は独立した会社として市場に評価されることになります。これにより、親会社の株主は、カーブアウトされた新会社の成長や収益性に直接アクセスできるようになります。さらに、新会社がIPO(株式公開)を行えば、株式市場における投資家の評価も得られるため、企業全体の市場価値が向上する可能性が高まります。
3. リスク分散と財務の健全化
企業が複数の事業を抱えている場合、一部の事業が抱えるリスクが他の事業に波及することがあります。例えば、特定の事業が不調に陥った場合、その損失が他の事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。カーブアウトを行うことで、このリスクを分散し、親会社と新会社がそれぞれ独立したリスクプロファイルを持つことができます。
また、カーブアウトされた新会社が外部投資家からの資金調達を行うことで、親会社の財務的な負担を軽減することができます。これにより、親会社は財務状況を改善しつつ、新会社の成長をサポートするというメリットを享受できます。
カーブアウト実施時の留意点
カーブアウトは多くのメリットを提供しますが、成功させるためにはいくつかの重要な留意点があります。これらを適切に管理することで、カーブアウトが企業にとって最適な結果をもたらすことができます。
1. 事業の選定
カーブアウトを実施する際、まずはどの事業を切り出すべきかを慎重に検討する必要があります。切り出す事業が独立した会社として成長可能かどうかを判断し、その事業が抱える課題や市場環境を十分に分析することが重要です。
また、親会社の戦略において、切り出される事業がどのような位置づけにあるかも考慮する必要があります。特に、成長性が高い事業をカーブアウトする場合、その事業の成長をどのように支援するかを明確にする必要があります。
2. 親会社との関係
カーブアウト後、新会社と親会社の間には一定の関係が維持されることが一般的です。例えば、親会社が新会社の株式を保有する場合や、新会社が親会社の資源(設備や技術など)を引き続き利用する場合があります。これらの関係を適切に管理することで、親会社と新会社の双方がスムーズに運営できるようにする必要があります。
さらに、新会社の経営陣が独立した意思決定を行えるようにするための体制整備も重要です。親会社からの過度な干渉を避け、独立した経営が可能になるようなガバナンス体制を構築することが求められます。
3. コミュニケーション戦略
カーブアウトを実施する際、従業員、投資家、顧客など、ステークホルダーへのコミュニケーションは非常に重要です。従業員に対しては、カーブアウトの目的や影響を正確に伝え、新会社への移行がスムーズに進むようサポートすることが求められます。また、投資家や顧客に対しても、カーブアウトによってどのような価値が創出されるのかを明確に伝え、信頼を維持することが必要です。
カーブアウトの事例
多くの企業がカーブアウトを活用して成功を収めています。以下は、実際のカーブアウトの事例の一例です。
1. IBMとKyndryl
IBMは、2021年に自社のインフラサービス事業をカーブアウトし、新会社「Kyndryl」として独立させました。これは、IBMがクラウドやAIといった成長分野に注力するための戦略的決定でした。Kyndrylはインフラサービス分野に特化した企業として、IBMとは異なる成長戦略を描くことが可能になり、両社がそれぞれの強みを活かす形で成長しています。
2. eBayとPayPal
eBayは、2015年に決済事業部門であるPayPalをカーブアウトし、独立企業としました。この決定は、PayPalが急成長しているオンライン決済市場において、より柔軟かつ迅速な経営判断を行うためのものでした。結果として、PayPalは独立後に大きな成長を遂げ、世界的な決済企業としての地位を確立しました。
まとめ
カーブアウトは、企業が成長戦略や事業再編の一環として検討すべき強力なツールです。適切に実施されれば、経営資源の最適化や市場価値の最大化、リスク分散といったメリットを享受でき、企業全体の競争力を高めることができます。しかし、事業の選定や親会社との関係、ステークホルダーとのコミュニケーションなど、多くの要素を慎重に検討することが成功の鍵となります。
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