EBPMで意思決定を変革する ― 経営に活きる「エビデンスに基づく政策立案」の思考法
2025年11月21日 / 最終更新日 : 2025年10月21日
現代のビジネス環境は変化が激しく、直感や経験だけに頼った意思決定では不確実性を克服することが難しくなっています。そこで注目されているのが「EBPM(Evidence-Based Policy Making)」です。もともとは行政分野で使われる概念ですが、企業経営においても非常に有用な考え方です。EBPMとは、政策や施策の立案をエピソードや感覚に依存するのではなく、合理的な根拠(エビデンス)に基づいて行うアプローチのこと。今回は、このEBPMをビジネスに活かす方法、実践事例、導入のポイントを詳しく解説します。
1. EBPMとは何か?
EBPM(Evidence-Based Policy Making)は、もともと英国を中心に行政分野で広がった概念で、「エビデンスに基づく政策立案」と訳されます。従来の政策は、担当者の経験や直感、あるいは一部の成功事例に頼りがちでした。しかし、社会が複雑化し、施策の効果が多面的になった現在では、客観的なデータをもとに合理的な判断を行う必要があります。
ビジネスの世界でも同様です。新しい事業戦略やマーケティング施策、人材配置などを決める際、データを用いて検証しながら進めることが、成功確率を高めるカギとなります。EBPMは行政だけでなく、経営の現場でも応用できる「意思決定の新しい型」なのです。
2. なぜ今、EBPMが求められるのか?
2-1. 不確実性の時代
市場は急速に変化し、従来の成功体験が通用しない時代になっています。デジタル化、顧客ニーズの多様化、地政学的リスク…。こうした要素が複雑に絡み合う中では、過去の経験則だけでは正しい判断が難しいのです。
2-2. データ活用環境の進化
近年、IoTやAI、BIツールなどの普及により、データを収集・分析するための環境が飛躍的に向上しました。以前は入手困難だったリアルタイムの顧客データや行動データも、今では容易に活用できます。EBPMを取り入れるハードルは確実に下がっています。
2-3. 経営資源の効率化
限られた予算・人員で最大の効果を上げるには、投資先を科学的に見極める必要があります。エビデンスに基づく意思決定は、無駄な施策を削減し、資源を重点的に投下するための有効な手段です。
3. EBPMのプロセス
EBPMを企業で導入する際は、以下の4つのステップを意識することが重要です。
3-1. 目的の明確化
何を達成したいのかを明確に定義します。たとえば「新製品の売上を前年比20%増加させたい」「離職率を10%改善したい」といった具体的な目標が必要です。
3-2. エビデンスの収集
目的達成に必要なデータを集めます。社内データ(販売実績、顧客属性、在庫状況など)に加え、外部の統計情報や市場調査データも活用します。重要なのは、データの信頼性と網羅性です。
3-3. 分析と検証
収集したデータを分析し、施策の効果をシミュレーションします。仮説を立てて検証を繰り返すことで、根拠ある意思決定が可能になります。近年ではAIや機械学習を用いた予測分析も有効です。
3-4. 実行とフィードバック
施策を実行した後、その効果を定量的に評価し、改善につなげます。EBPMは「一度きりの分析」で終わらせず、PDCAサイクルと組み合わせることで継続的に成果を高められます。
4. ビジネスでの活用事例
事例1:小売業の価格戦略
ある小売チェーンでは、過去の販売データと顧客属性データを分析し、地域ごとの最適価格を設定しました。結果、対象商品の売上が15%増加。従来の経験値に頼った価格設定よりも、はるかに高い効果を上げました。
事例2:人材マネジメント
製造業の大手企業では、離職率の高さが課題となっていました。人事データを分析したところ、勤務時間の長さや上司の評価方法が離職に強く影響していることが判明。そこで勤務体制と評価制度を改善した結果、離職率が20%改善しました。
事例3:地方自治体の観光施策
行政の事例ですが、地方自治体が観光客の動向データを収集・分析し、効果的な観光プロモーションを実施。広告費用を前年より30%削減しながら、観光収入を20%増加させた事例もあります。企業のマーケティング施策にも応用可能な成功例です。
5. 市場規模と今後の展望
総務省の資料によれば、行政分野におけるEBPMの導入率は年々上昇しており、2025年には主要省庁の9割以上がEBPMを取り入れると予想されています。民間企業でもデータドリブン経営が加速しており、調査会社の試算では、国内のデータ分析・意思決定支援市場は2025年に約3兆円規模に達すると見込まれています。EBPMは行政の枠を超え、企業経営の中核的手法として定着していくでしょう。
6. 経営者・ビジネスマンへの示唆
EBPMを導入するうえで重要なのは、「データを単なる数字の集まりではなく、意思決定のための武器として活用する」視点です。具体的には以下の3点がポイントとなります。
1.データ活用の文化を醸成する
感覚的判断を排し、エビデンスを基に議論する文化を社内に浸透させる。
2.適切なツールを導入する
BIツールや分析プラットフォームなど、データ活用を支える仕組みを整える。
3.スモールスタートで検証する
いきなり全社導入ではなく、特定の部門やプロジェクトで試行し、効果を確認したうえで拡大する。
まとめ
EBPMは、直感や経験則に頼らず、データに基づいて合理的に意思決定を行うための強力なアプローチです。行政の枠を超えて企業経営にも浸透しつつある今、経営者やビジネスマンにとってEBPMは「知っている」だけでなく「使いこなす」べき戦略手法と言えます。エビデンスを武器にした意思決定が、これからの競争環境で企業の成長力を大きく左右するでしょう。
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